とうほく創生Genkiプロジェクト
フォーラム in 仙台

河北新報社などでつくる東北七新聞社協議会は10月28日、「とうほく創生Genkiプロジェクトフォーラムin仙台」を仙台市青葉区の仙台国際ホテルで開催した。JR九州取締役監査等委員の後藤靖子氏が「鉄道と地方活性化」と題して基調講演。「とうほくを広げる」をテーマにしたパネル討論もあり、東北の産業の課題を見極め、飛躍につなげる方策を話し合った。会場には300人以上が詰めかけ、活発な議論に耳を傾けた。

講演 / JR九州取締役監査等委員 / 後藤靖子さん
「ななつ星」地域との交流が好評 / 鮮烈な四季、東北はアピールを

後藤靖子氏

後藤靖子氏

鉄道は地域にとって不可欠のインフラだが、どこの地域も経営は苦しい。九州は人口が減少傾向にある。人口は都市に集中し、中山間地は減っており、鉄道事業者として地域をどう支えていくかは大きな課題だ。

JR九州は「楽しい列車が多い」と言っていただいている。「安全」「速く」に加えて「楽しく」という概念を入れたのは誇れる点だ。列車に乗った瞬間から湯布院の雰囲気を楽しめる「ゆふいんの森」、海側の展望が見事な「指宿のたまて箱」など魅力ある列車が各地で走り、海外客にも人気がある。

「ななつ星in九州」が運行を始めたのは2013。職人が手掛けた伝統工芸の「組子」を取り入れ、部屋ごとに内装のデザインが異なる。海外客の評価が高いのは、都会とは違う空気、日本らしさを感じるからではないか。

保育所の児童が列車が通るたびに手を振ってくれる。そのように住民が歓迎してくれる場所が沿線にたくさんある。地域の知名度アップのためではなく「来てくれてうれしい」という素直な気持ちを表現している。それが客に喜ばれる。

列車のクルーとの触れあいも魅力の一つだ。JR九州は「お客さまと友達になれ」とクルーに教育する。身の上話をしたりして本当に一生懸命だ。難しいことではなく、心の触れあいが感動を呼ぶのだろう。

視察に来た東北の方々からは「どうやっておもてなしをしているのか」とよく聞かれる。いいと思ったらまずやってみる。一歩前進する行動力があると、東北の人たちも、ものすごい力が出ると思う。

訪日外国人観光客(インバウンド)誘致という点で、九州はアジアに近く、地理的に有利だ。ただ長く滞在してくれないという課題がある。東北に呼び込むには、まず海外と結ぶ航空便を増やすことが必要だ。2次交通の整備も大切だが、路線バスやタクシーなどを活用する方法もある。

次に情報発信。東北の魅力は四季の美しさ。これほど四季の移り変わりが美しい地域は日本中ほかにはない。それを知ってもらえれば来てもらえる。

私が山形県副知事だった当時でさえ、出羽三山にフランスやスペインから客が来ていた。欧米の人たちは、情報ときっかけがあればそこへ行く。東北には隠れた観光資源がたくさんある。待っていてはだめだ。どんどん発信してほしい。

東北の産業をいかに飛躍させるかを話し合ったパネル討論

パネル討論

パネル討論

  • パネリスト
  • ■ 日本政策金融公庫副総裁 伊藤健二氏
  • ■ アイリスグループ会長 大山健太郎氏
  • ■ 全国農業協同組合連合会常務理事 安田忠孝氏
  • コーディネーター
  • ■ 東北大地域イノベーション研究センター長 藤本雅彦氏
伊藤健二氏

伊藤健二氏

藤本 それぞれの事業内容を聞かせてほしい。

伊藤 宮城県加美町の出身で、帰省するたびに大崎耕土はいい景色だと思う。世界農業遺産に認定されただけの魅力を感じる。
日本政策金融公庫は2008年、当時の三つの公庫が統合して発足した政策金融機関。支店は全国に152、東北6県に16ある。「国民生活」「農林水産」「中小企業」の3事業で相乗効果を挙げ、地域経済を活性化していきたい。

大山 当社は、仙台市青葉区に本社を置くグローバル企業だ。宮城県には大河原町と角田市に大きな工場がある。グループ全体で25社、国内外に30工場があり、社員数は計1万2000人を超える。
東日本大震災を契機に日本の課題に挑戦しようと「ジャパンソリューション」と銘打ち、LED照明や家電の製造、東北のコメを低温製法で精米して販売する事業を展開している。

安田 全農は全国640の農協が出資した組織で、生産用資材などを取り扱う。全国1044万人の農協組合員がきちんと生産に取り組めるよう努力している。
東北6県では「全農東北」プロジェクトが「東北和牛」という新しいブランドを出荷し始めた。岩手県の農場で生産した子牛を6県の肥育農家が育てている。東北での取り組みとして象徴的な存在で、ぜひご賞味いただきたい。

藤本 東北の産業が飛躍するための課題とは。

大山健太郎氏

大山健太郎氏

大山 当社は大阪で下請け工場としてスタート。農水産の資材を作り、木材だった育苗棚をプラスチックに変えた。1970年代に宮城県に進出。オイルショックで厳しい環境になり、大阪の工場を閉鎖して宮城の企業に生まれ変わった。
経営者目線で言うと、東北の人はまじめで我慢強く、製造業に向いている。地元の人材が国内で市場をつくり、事業を世界に広げた。ただ、少し保守的というか、熟慮しないと前に進まないところがある。
世の中はめまぐるしく変化し、グローバル競争が激しい。過去のビジネスの延長は通用しない。人口減少と高齢化が進み、日本の市場が縮小する中で、変化に対応するベンチャースピリットが必要だが、東北にはこれが足りない。

安田忠孝氏

安田忠孝氏

安田 東北6県の農業生産額は1兆3886億円で、全国の15%を占める。特にコメと果実は全国の4分の1だ。東北は重要な食料供給基地だ。
日本の食料自給率はカロリーベースで38%。国は自給率の向上を目指しているが、下がり続けている。世界各国は近年、上昇傾向にある。食べ物の多くは外国産に頼っており「輸入をなくせばいい」というのは現実的ではない。
人口減少の一方、単身世帯などが多くなり、世帯数は大きく増えている。消費の面から見れば、人口減ほど食料の需要は減らない。食材を調理して食べる食事から食事を買って食べる形態が増え、加工、業務用の食材も増えている。コメも家で炊く割合が減り、中食、外食が3割を超える。
2015年の耕作放棄地は日本全体で42万ヘクタールになり、福井県の面積に当たる。30年間で3倍だ。明るい話題もあり、新規就農者は毎年6万人を超えている。
今後も日本の食を支える東北の農業の重要性は変わらない。それだけに日本の農業の問題が東北に顕著に表れる。東北の農業を強くすることが、日本の農業を強くすることにつながる。

伊藤 復興支援の融資状況は累計で8万1000件、1兆円余りになっている。今年の西日本豪雨もそうだが、災害復旧はわれわれの仕事の1丁目1番地と考えている。今後も役割を果たしていく。
(1)創業支援 (2)事業再生・事業承継支援 (3)ソーシャルビジネス支援 (4)海外展開支援 (5)農林水産業の新たな展開支援—の五つを成長分野として力を入れている。
東北の企業はここ18年で3割減ったが、ここ2年間は横ばいだ。宮城は少し増えている。創業支援はとても重要だ。全国で2万8000の企業の創業に融資している。東北は起業数が少なく、まだできる余地がある。地域で創業者を応援することが重要だと思っている。創業の多い地域ほど官民の連携が充実している。
岩手では、南部せんべい製造会社が震災で工場の全面移転を計画した。移転後は工場だけではなく、売店などを建設し、周辺地域の観光施設と連携して新たな観光ルートを形成して地域活性化を目指す内容だ。民間と連携し、この会社を支援していく。

藤本 課題を解決するためにどのような取り組みをするべきか。

藤本雅彦氏

藤本雅彦氏

安田 東北における農業生産の最大の課題は労働力の確保で、個々の生産者では解決できない。大分県では農協が取りまとめ役になり、パートナー企業が生産者に労働力を提供する仕組みをつくった。佐賀、福岡両県にも広がりつつある。全農としても他の地域に拡大させたい。
国内外への東北の食の発信も必要だ。昨年の訪日外国人客(インバウンド)は2869万人で、飲食費として約1兆2000億円が使われた。東北の食の豊かさや品質を外国人に発信すれば、地域を訪れて地元の食材を消費する流れができるだけでなく、やがては海外の市場をつくることにつながる。

伊藤 地域を活性化するには創業を後押しし、新事業を生み出すことが重要。キーワードは行政と金融機関、私ども公庫も含めた「総力戦」での応援だ。
仙北市で女性経営者が営む農家民宿は、海外からの予約が年間の受け入れの半数を占める。地の利は悪いが、市が音頭を取って米国人80人を集めたことが起爆剤になった。東北6県を訪れたインバウンドの宿泊者数は95万人で、まだまだ伸びしろがある。
仙台市の秋保ワイナリーは地元の旅館と連携し、レストランや農作業の体験型観光を企画している。一企業だけではなく、地域全体で観光資源を詰め込んだことがポイントだ。

大山 東日本大震災後、農業の復興のために精米事業に参入した。国内はコメの消費が減少している。消費者と産業界の目線で考え、熱による食味の劣化を防ぐために低温で精米できる工場をつくった。低温精米したパック米は1合、2合といった単位でコンビニエンスストア各社によって全国で販売されている。
パックご飯の販売は好調だ。ほとんどの人が電子レンジで温めるパックご飯を食べるようになり、将来的には炊飯器はなくなると思う。「簡単」「便利」「おいしい」。これが消費を増やすことにつながる。コメの消費を拡大することで日本の農業を活性化させる。

藤本 地域の持つ多様な資源に新たな価値を付け加えていくことが必要だ。例えば、同じインバウンドでもフランス人と中国人では見ている方向が違う。誰にどんな価値を提供するのかを顧客目線で細かく見ていくことが求められる。

東北7新聞社共同宣言

パネル討論

登壇し、共同宣言を発表する7社の社長ら

フォーラムでは最後に、東北七新聞社協議会の2018年度代表を務める一力雅彦河北新報社社長、鳴海成二東奥日報社専務、小笠原直樹秋田魁新報社社長、東根千万億岩手日報社社長、寒河江浩二山形新聞社社長、高橋雅行福島民報社社長、五阿弥宏安福島民友新聞社社長の7社の社長が登壇。一力河北新報社社長が代表して共同宣言を読み上げた。全文は次の通り。

わたしたち東北七新聞社協議会は、2015年度より「とうほく創生Genkiプロジェクト」として地方創生に取り組んでおります。東北地方で顕著にみられる少子高齢化、地方過疎化の波を乗り切るため、観光や産業、食の分野における6県の先駆的事例を新聞を通じて地域に共有させることで、活力を生み出そうと展開しております。

今年は「とうほくを広げる」をテーマに、訪日外国人観光客の誘客や域外への情報発信、そして時代を切り開く企業の取り組みなどを紙面で紹介しました。本日のフォーラムを通して、地域に活力を生み出すのは人の力であることを改めて感じています。

このプロジェクトは、2020年までの長期的視点で地方創生に関わる課題解決に取り組む計画です。東京オリンピック・パラリンピックで日本が世界から注目を集める機会に東北の魅力を発信するため、私たちは今後より一層、東北人に潜在する力を引き出す、その一翼を担い続けることをここに宣言します。

新聞の掲示

新聞の掲示

フォーラムの会場には東北の7新聞社に掲載された「とうほく創生Genkiプロジェクト」の特集紙面を紹介するパネルも展示され、来場者が記事を熱心に読んでいた。

「だて正夢」プレゼント

新聞の掲示

来場者には今秋本格デビューした宮城産米「だて正夢」がプレゼントされた。