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インタビュー藤田智さんへのインタビュー

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家庭菜園や市民農園の指導普及活動を積極的に行う恵泉女学園大教授の藤田智さん(58)に東北の農業の魅力や課題を聞いた。—長年農業に関わってきた。農業の魅力は。
「コメとリンゴを栽培する兼業農家で育ち、農業は家族が一緒にやれる仕事だと感じてきた。自分の家で作った物を食べる地産地消が体に染みついている」

—東北地方の魅力とは。
「講演で東北にもよく行くが、新幹線の車窓から四季が感じられる。春は水を張った田んぼ。夏は緑が覆い、秋は色付いた稲穂が黄金色に輝く。冬は雪で一面真っ白。季節の移ろいがはっきり見える魅力がある」

—東北は2011年に東日本大震災に襲われ、農業も課題を抱える。
「東北の農業の根本的な課題は、実は震災前から変わらない。就農者の減少による後継者不足、農業従事者の高齢化、貿易交渉への対応など大きな課題を抱える」

—東北の農業の課題を解決するには何が必要か。
「農家の収入を増やすことだ。東北には、青森はニンニクやヤマイモ、岩手はホウレンソウなどの高冷地野菜、秋田はトンブリやジュンサイ、山形はダダチャ豆や食用菊、宮城は仙台長ナスやミョーガ、福島は会津コギクカボチャや舘岩カブなど、各県に豊富な地方品種がある。アイデアを出し、食の魅力を発信するべきだ」

—食の魅力をどう発信する。
「石川県の伝統野菜『加賀野菜』の例を紹介する。かつて加賀野菜は30数種類あったのに、2000年を迎えるころ多くが作られなくなり、15種類にまで半減した。そこで地元の種苗会社が関係機関と一緒に、加賀野菜復活に挑戦した。調理教室や栽培講座を開いたほか、市場関係者に呼び掛けて販路拡大を試みた。多くの人の長年の努力が実り、今では加賀野菜は一つの産業になった。東北でもできるはずだ」「地域全体で発信するには、農家や売り手、調理人をつなぐコーディネーターが必要になる。キーワードは連携。取り組みをリードする人材をつくらないといけない。東北人は特に寡黙だから」

—首都圏など大消費地への売り込みも必要になってくる。
「農業には知的創造力が必要だ。農作物という商品には、栽培する人、商品を売る人、消費者が関わる。マーケットの把握のため、消費者との対話も大切だ。商品が最終的に、誰に、どのように消費されるか把握しないといけない」

—勤務する恵泉女学園大は園芸が必修というユニークな教育方針だ。
「全学生が野菜や花の栽培を経験する。キャンパスには、花や野菜の畑や花壇もある。卒業する学生に『最も印象に残った授業は?』と聞くと、『園芸』と答える人も多い。最初は手に泥が着くのを嫌がったり、植物に付いた虫を怖がったりした女子大生が、徐々に平気になる」

「自分で育てた花や野菜を『先生、これは私が育てた生命ですよね』と言ってくれた時は、私も感動した。授業以外にも、講演やメディア出演を通し、農業という職業と食の素晴らしさを伝えたい」

藤田智氏

プロフィール

藤田 智氏

ふじた・さとし 1959年秋田県湯沢市生まれ。湯沢高—岩手大農学部—岩手大大学院修了。盛岡市の私立高教諭、恵泉女学園短大助手などを経て恵泉女学園大人間社会学部社会園芸学科教授。専門は園芸学、野菜園芸学。家庭菜園・市民農園の指導普及活動を積極的に行い、NHK・Eテレ「趣味の園芸 やさいの時間」日本テレビ系列「世界一受けたい授業」などテレビ出演多数。園芸関係の著書は120冊を超えた。