フォーラム東北の魅力発掘の方策探る
東北七新聞社協議会主催の「とうほく未来Genkiプロジェクト」の総括フォーラムは10月23日、福島市のザ・セレクトン福島で開かれた。プロジェクト2年目となる今回は「かわる東北」をテーマに東北の観光、食、人・産業に焦点を当て、魅力を発信するヒントを見つけようと企画した。経済産業省東北経済産業局の戸辺千広局長が基調講演した他、農業、観光、金融の各分野の専門家がパネル討論し、東北の活性化や魅力発掘につながる方策を探った。
産業振興のポテンシャル高い 東北経済産業局長が基調講演
経済産業省東北経済産業局の戸辺千広局長が「『共感』『協奏』『変革』ともにつくる東北。」と題して基調講演した。要旨は次の通り。
新型コロナウイルス感染拡大は私たちの生活スタイルを大きく変えた。デジタル化が急激に進展し、柔軟な働き方やビジネスモデルに変化をもたらした。仕事をする上で、地方と首都圏との差はなくなってきている。それでも、地方に魅力的な仕事はあるのか、収入の面で首都圏の方が勝っているのではないかと考える人もいるだろう。東北にも魅力的な仕事は多々ある。仕事と家庭生活、余暇の活用などワークライフバランスを達成するための方策を考えていきたい。
東北は農林水産業や観光関連産業のウエートが高い。2年以上、新型コロナの影響を受けているが、旅行者や外食などの消費は回復傾向にある。今年は各地で多くの祭りが3年ぶりに復活した。観客は喜び、楽しんでいた。主催者側も活気にあふれていた。「ウィズコロナ」で経済活動と両立を図っていかなくてはならない。
東北では、産学官による拠点づくりや次世代産業の育成の場の整備が進んでいる。イノベーション(技術革新)やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の分野でさまざまな取り組みがなされている。リチウムイオン電池を使った電気自動車(EV車)の技術開発も進められている。山形県飯豊町では、日本初となるEV教育に特化した専門職大学が来年の開校に向け準備が進められている。
電子、デバイスなど「産業のコメ」といわれる半導体関連産業も集積しており、産業振興へのポテンシャルは高い。今後、爆発的に需要が伸びる。こうした強みやネットワークを維持・活用し、次世代の産業づくりを進めていくことが大切だ。
コロナ禍や物価高、燃料価格の高騰などで地域経済は厳しい環境に置かれている。電気料金も高騰している。国が設けている企業向け支援メニューを広く利用してもらえるよう、地域金融機関などと連携し、周知を図りたい。
一方、円安は輸出産業には追い風となっている側面もある。過去最高益を更新している企業もある。海外に販路を拡大するため、企業が連携した共同開発による統一ブランドづくりも欠かせない。商品開発、ブランディング、販路開拓を地道に進めていくことが大切だ。
宮城県で育ち、この2年間は福島復興局に勤務し、復興のお手伝いをさせてもらった。東北の自然、文化、食べ物に触れながら育ち、生活してきたので東北への思いは強いと思う。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故を経験し大変な中でも社会課題の解決に汗を流し、それを知った新たな人が地域に呼び込まれる様子を目の当たりにしてきた。これからも、東北が元気になるお手伝いをしたい。
「コロナ禍にマッチした観光を」「連携しやすい点を生かして」「東北の語り部に」 専門家がパネル討論
【パネリスト】
全農東北プロジェクト事務局専任課長 柴田温氏
東北観光推進機構理事長 紺野純一氏
日本政策金融公庫専務取締役 小野洋太氏
【コーディネーター】
桜の聖母短大学長 西内みなみ氏
【司会】
福島テレビアナウンサー 浜中順子氏
「かわる東北」をテーマに行われたパネル討論の要旨は次の通り。
西内氏 東北の現状と課題についての意見を聞かせてほしい。
小野氏 2001年に36万社だった東北の企業数は2016年には26万社となり27%減少した。ただ、全国でも企業が24%減っている。人口減に比例し、飲食や宿泊などの産業が落ち込んでいる。製造業では、製品出荷が東日本大震災、東京電力福島第1原発事故前の水準に戻ってきた。新型コロナの影響などで海外から部品が入らず、製品を出荷できない現状はあるが、受注は伸びており、悲観するものではない。農業従事者は減少しているものの、農業の未来は明るいと思う。人が少ないからこそ、企業化、大規模化、働きやすさを意味するホワイト化が進むからだ。そうすれば、収益は上がり、若者も参入しやすくなる。コロナ融資の返済が来年春にピークを迎える。返済条件の変更や追加融資を受けた事業者が一定程度おり、民間の金融機関とも連携しながら、コロナ後を見据えた事業者支援に力を入れる。
紺野氏 東北の観光の課題として、各地の交通インフラが整っているため、宿泊日数が沖縄や四国などに比べて少ないことが挙げられる。東北の各地や各団体が連携した上で、長い期間、東北に滞在してもらえるような方法を東北全体で考えなければならない。新型コロナの影響で観光業界は大きな打撃を受けている。全国旅行支援などの効果で観光客数は回復傾向にあるが、(コロナ禍前の)2019年のレベルに戻るには時間がかかる。さらに、現在は物価高、燃料高などの新たな課題も突き付けられている。海外からの入国制限が緩和され、円安も続いている。少子化や高齢化が進む中、インバウンド(訪日客)の取り込みや関係人口をどう拡大させるかが大きな鍵になる。東北の各地がしっかり連携し、取り組みを進めていきたい。
柴田氏 東北の農業生産額は年間1兆4千億円で全国の16%を占めている。東北6県を合わせた生産額は北海道を上回っている。果物やコメなど県ごとに豊富な農産物があり、それぞれに特徴がある。食料自給率も全国平均を上回っており、そういう意味で、「独立できる」という強みがある。ニンニク、とんぶり、紅花など他の地域で作っていない農産物が各地に散らばっているのも特徴的だ。一方、農業従事者が減少している上、高齢化が進んでいることが課題に挙げられる。ドラッグストアが食品業界に相次いで参入し、コロナ禍でネット通販が伸びている。社会や環境問題に配慮した「エシカル消費(倫理的な消費)」に関心を持つ購買者が増えるなど食を取り巻く環境は大きく変化している。農業や消費の現状を注視して対応したい。
西内氏 東北をさらに活性化させるための提言や展望を聞かせてほしい。
紺野氏 コロナ禍で価値観が変化し、旅行そのものが多様化している。人の動向などに関するさまざまなデータを集めている。新たな観光素材を組み合わせ、コロナ禍にマッチした仕組みづくりを図っている。東北を応援する「TOHOKU Fan Club」の会員を募っている。5年で10万人が目標で、このうち1万人は海外を想定している。インターネットでの発信で影響力がある「インフルエンサー」としての役割に期待している。桜や紅葉の名所が各地に点在している。これらを面で捉え、デジタルを駆使して情報発信したい。たくさんある東北の観光コンテンツを広域で捉えて連携することが大きなポイントだ。それが人口減少時代、ポストコロナ時代の大きなテーマになる。東北の持つ風土を生かしながら、どのように形にしていくか考えていきたい。
小野氏 事業者も変わる必要がある。具体的な例として、岩手県のある酒造メーカーは「卸」から「小売」に変えた。コロナ禍で日本酒が売れなくなったので直接販売するようにした。秋田県のあきたこまちの生産団体は、コメが売れなくなったため、流通と組んで価格を下げるよう工夫してパックご飯を海外展開している。外国人はコメを上手に炊くことができないのではと考えた。事業者、経営者が変わることの一つに事業承継がある。私たちは事業承継を「創業」と捉えている。ゼロから立ち上げるのは大変だが、既にある基盤を有効活用できる。地域経済の活性化に取り組む機関との連携が重要になっている。東北は他の地域に比べ、「一丸となって頑張ろう」と思う人が多く、連携しやすい。こうしたプラスの面を若い人たちにつないでいきたい。
柴田氏 鳥獣被害の増加や労働力の減少などの課題を克服するため、電気柵の設置や情報通信技術(ICT)を活用したスマート農業などに力を入れている。東北の農業が振興した上で日本の農業が発展すれば、日本のためになる。大事なことは、東北を知っている人に東北の良さを再認識してもらうこと。そういう人が語り部として、東北を知らない人に良さを伝えていく。この動きを広めて東北の魅力をたくさんの人に知ってもらいたい。新型コロナにより、東京にいなくても仕事ができることが分かった。地方に住んだまま午前中は農作業に励み、午後からリモートで仕事をする。こうした生活様式を提案することで、東北での新たな過ごし方が生まれてくるのではないか。東北の農業や食の魅力を発信して、元気な地域づくりを目指していきたい。
【パネリスト経歴】
おの・ようた 東京大法学部卒。1989年に通商産業省(現経済産業省)入省。同通商金融・経済協力課長、財務省大臣官房参事官、資源エネルギー庁長官官房資源エネルギー政策統括調整官などを歴任。2021年に日本政策金融公庫専務取締役に就任した。愛知県出身。
こんの・じゅんいち 福島工高卒。1968年に国鉄に入った。JR東日本の福島駅長、仙台駅長などを歴任。仙台ターミナルビル専務取締役、ホテルメトロポリタン仙台総支配人などを務めた。東北観光推進機構専務理事推進本部長を経て6月から現職。福島県出身。
しばた・あつし 山形大大学院農学研究科修了。1989年に全農入会。営農・技術センター農産物商品開発室長、JAタウン推進室室長、開発企画室室長などを経て、2018年から現職。東日本大震災からの復興や生産振興などを担当。秋田県出身。
東北の食や観光の魅力語る AKB48チーム8の清水麻璃亜さんと服部有菜さん
AKB48チーム8の清水麻璃亜さん(群馬県代表)と服部有菜さん(岐阜県代表)が出演し、東北の食や観光などを魅力を語った。
清水さんは東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地である仙台市の楽天生命パーク宮城でのイベントや、福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズでライブを行った経験などを披露した。服部さんは山形県のサクランボが大好きだと紹介した。2人は「いろいろな場所に行ってファンの方々と交流を深めたい」と語った。
プレゼント抽選も行った。来場者に牛肉、海産物、日本酒など東北6県の特産品が贈られた。
東北七新聞社が共同宣言
フォーラムには、協議会に加盟する7新聞社の社長が出席した。釆田正之東奥日報社社長、佐川博之秋田魁新報社社長、東根千万億岩手日報社社長、芳見弘一福島民報社社長、中川俊哉福島民友新聞社社長、一力雅彦河北新報社社長、寒河江浩二山形新聞社社長が登壇。代表して中川社長が共同宣言を読み上げた。
共同宣言全文
私たち東北七新聞社協議会は昨年度より、「とうほく未来Genkiプロジェクト」として、東北の未来に向け、地域活性化に取り組んでおります。東北地方で顕在化している少子高齢化、過疎化を乗り越え、持続可能な地域社会をつくるため、観光や産業、食の分野における6県の先駆的事例を通して活力を生み出そうとプロジェクトを展開してまいりました。
今年は「かわる東北」をテーマに、これまで議論してきた諸問題に加え、頻発する自然災害や新型コロナウイルス感染症などを経て、防災、減災を念頭にこれまでとは異なる方法や様式を取り入れ、アイデアや工夫を凝らして時代を切り開く取り組みなどを紙面で紹介しているところです。本日のフォーラムにより、地域に活力をもたらすのは東北各地に根を張って生きる人々の力であることを改めて感じています。
このプロジェクトは2026年まで、東北の未来を切り開くための課題解決に取り組んでまいります。デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用などを通して東北の魅力を発信し、それぞれの地域力を高めるため、私たちは引き続き、東北の潜在力を余すところなく引き出す、その一翼を担い続けることを、ここに宣言します。一翼を担い続けることを、ここに宣言します。