久慈市山形町のまめぶ汁
「あまちゃん」効果で全国区の人気に

「あまちゃん」で取り上げられたまめぶ汁を求め、長い列をつくる観光客ら=5月3日、岩手県久慈市・小袖漁港

岩手県久慈市山形町の郷土料理「まめぶ汁」は、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」に取り上げられ、全国的に注目されている。地域にとっては、地元の魅力を見つめ直すきっかけにもなっている。
まめぶは小麦粉を練った生地にクルミと黒砂糖を包み込み、団子状にしたもの。黒砂糖を入れない集落もあるが、汁は全てしょうゆ味で、各家庭の祝い事などで振る舞われてきた。
まめぶの呼び名は形が「鞠生(まりふ)」に似ていることや、「まめまめしく、健康で無事に暮らせるように」という願いからともいわれる。
ドラマで取り上げられ、知名度は一気に拡大。ロケ地となった久慈市の小袖漁港では海女の素潜り漁とともに、まめぶ汁を味わうことも観光客の楽しみとなっている。
地元青年会を中心に2010年4月に発足したまちおこし団体・久慈まめぶ部屋(小笠原巨樹(なおき)部屋頭、25人)は、9月に青森県十和田市で開かれた北海道・東北B|1グランプリで県勢初の3位入賞を果たした。
同部屋は今年5月から、閉校した旧荷軽部(にかるべ)小校舎の一部を市教委から借用し、まめぶの調理場として活用。地元出身力士の二十山(はたちやま)親方(元小結栃乃花)の化粧まわしを置いて「ミニ記念館」とするなど地域利用を進める。
小笠原部屋頭は「今の盛り上がりとともに、これまで受け継がれてきた文化を大事にしたい」と決意。11月の「全国大会」に向け、「10位内入賞を目指したい」と意気込む。

【岩手日報社】

sugawara

識者インタビュー

「東北人は厳しい自然環境を知恵で乗り越え、郷土食を脈々と伝えてきた。とても力強い文化です」

岩手食文化研究会会長 菅原悦子さん

菅原 悦子(すがわら・えつこ)お茶の水女子大家政学研究科食物学専攻修士課程修了。学術博士。93年岩手大教育学部助教授、99年同教授、10年同大副学長(男女共同参画・付属学校担当)を兼務。専門は調理科学、食品化学。60歳。岩手県花巻市出身。

岩手食文化研究会会長・菅原悦子さんに聞く

海、山、里の多彩な食材に恵まれた東北。自然環境が育む食文化や郷土食について、岩手大副学長で岩手食文化研究会代表の菅原悦子さん(60)に聞いた。

■東北の気候と食の関係は。
「岩手県北部はやませの影響で米がとれず、そばや豆しとぎなどの雑穀文化が生まれた。厳寒の西和賀町に伝わる凍(し)み大根は大根を丸ごと干して作るのが特徴。寒暖差が激しい土地ならではの加工法だ。東北には『凍み文化』があり、福島県の会津地方にも西和賀と似た食文化がある」

■西和賀町は秋田県の影響も受けていると聞いた。
「魚の『すし漬け』は秋田県の食文化だ。距離的に近いから影響を受けた。山を隔て地理的に距離がある盛岡には伝わっていない」

■内陸と沿岸の郷土料理の違いは。
「まず人の考え方が違う。5年前、(郷土食の伝承者として岩手県が認定した)『県食の匠(たくみ)』らに郷土食のイメージをアンケートした。沿岸の人は食材、内陸は調理する技や知恵と答えた」
「沿岸はとれたての海産物を日常的に食べていることから、加工品よりも新鮮な食材の価値が高い。一方、海が遠い内陸はいかに食材をおいしく保つかという調理技術を重視していた。普段の食生活が影響している」

■同じような料理でも地域独自の呼び名があって面白い。
「私が生まれた花巻では、米粉を使った『きりせんしょ』をよく食べる。他の地域では『ゆべし』と言うが。ひな祭りのお菓子で、毎年作るからこそ受け継がれてきた」
「郷土食は行事食で、久慈地域の『まめぶ』も冠婚葬祭の料理。黒砂糖やクルミが貴重だった時代、手間をかけて客をもてなした」

■料理とともにそのいわれや行事も後世に伝えるべきと思うが。
「それこそが郷土食を伝える上で最も大切なこと。長い間、『食と生』は一体だった。その食べ物が生まれた背景を考え、その土地で食べれば2倍も3倍もおいしくなる」

■震災で三陸の祭りや伝統行事も被害を受けた。食への影響は。
「学生が昨年、沿岸の伝統行事『えびす講』が震災後も続けられているかを調べた。大漁を祈願し、尾頭付きの魚などを神前に供える行事だが、被災した人の多くがやめていた。今後は高齢化とともに郷土食の衰退が加速するだろう。だが、今年は復活させたいという声も多かった」

■被災した農漁業も含めた食の課題は。
「東北は日本の食材の生産基地。生産、料理の担い手がいなければ郷土食も消える。高校生をターゲットに農業体験、調理実習などの食育をさらに充実させたい」

■最後に、東北の食の魅力とは何か。
「東北人の実直さ、素朴さが食材や料理に表れている。厳しい自然の中でどう生き延びるか、その思いが究極の形になったものこそ東北の郷土食だ」