人・産業伝統工芸 脱炭素に挑戦
世界規模の気候変動が人々の生活を脅かし「脱炭素」の推進が欠かせない。岩手県奥州市水沢の南部鉄器鋳造業・及富は植物由来の固形燃料「バイオコークス」を用い、二酸化炭素(CO2)の排出削減に取り組んでいる。
秋が深まり肌寒さを感じる10月ながら、汗ばむほどの工房内。溶解炉から流れ出る1500度の真っ赤な鉄を職人たちが大きなひしゃくに取り、手際良く鋳型に注ぐ。
この鉄を溶かす工程で、木くずや植物の種などを原料としたバイオコークスを取り入れる研究を重ねている。岩手大の協力を得て4月、通常石炭を用いる分量の1割を置き換える実験を行った結果、十分な燃焼効率を確保でき、鉄瓶や風鈴がきちんと商品になった。
バイオコークスは燃焼時のCO2排出量を抑えられる固形燃料として、鋳造や鉄鋼業で活用が期待される。生産量が少ないために安定確保が課題だが、石炭コークスと比べて製品に影響を与える硫黄が少なく、品質向上にもつながる。
11月には置き換え率を2割に高める実験を行う。「脱炭素化の道を開拓し、次世代につなげていきたい」と菊地章専務(65)。伝統工芸の進化へあくなきチャレンジを続ける。
(岩手日報)