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インタビュー東北観光推進機構会長 清野 智氏に聞く

東北の観光再生への取り組みを語る清野会長
東北の観光が伸び悩む背景にはPR不足と東日本大震災の影響、特に東京電力福島第一原発事故による風評がある。他地域に追い付く特効薬はない。単に「良い所だから来て」ではなく、明確な魅力やストーリーを地元が示す必要がある。
東北6県に新潟県を加えた2015年の外国人延べ宿泊者数は67万人で震災前の10年の水準に戻ったが、全国の1%にすぎない。機構は東北観光復興元年の今年、これを100万人まで増やす目標を掲げている。

誘客ターゲットの一つは親日的で距離的にも近い台湾だが、現地の旅行関係者は一つの県や都市よりも複数の自治体が一緒にPRしたほうが効果的という。例えば福島県単独でも見どころはあるが、山形、宮城両県を加えれば選択に幅が出る。中国や東南アジアから初来日した人は東京〜京都の「ゴールデンルート」を選ぶ。日本人が「欧州といえばパリ」と思うのと同じだ。日本に好印象を持つリピーターにどんな「東北の旅」を提案するかが重要になる。

機構は昨年、名勝や旧跡をたどる16の拠点を結ぶ「日本の奥の院・東北探訪ルート」を策定し、国土交通省の広域観光周遊ルートに認定された。外国人留学生によるモニター旅行などを通して「外の視点」から観光地の課題を探った。政府は今年、東北観光予算に50億円を確保した。この財源を自治体や観光協会とともに活用し、多言語による案内板の設置や交通機関の情報提供など受け入れ体制の整備を進める。

東北の強みの一つは四季折々の自然だ。桜の季節に弘前城(青森県弘前市)まで北上するツアーをはじめ、秋の紅葉を南下するルート、冬は安比高原(岩手県)や蔵王(山形、宮城両県)の周遊プランを作れる。スキーに加え、雪祭りなど雪に親しむ体験も南国の人には魅力的だろう。

歴史に焦点を当てれば、鶴ケ城(福島県会津若松市)から弘前城までの城巡りや、白水阿弥陀堂(福島県いわき市)から中尊寺(岩手県平泉町)までを結ぶ平安文化の旅を提案できる。三内丸山遺跡(青森市)を中心とした縄文文化や、秋田県仙北市角館町の武家屋敷も有力な観光資源となる。

海外から東北への導線は仙台空港の民営化や北海道新幹線開業などで強化されたが、各地に人を誘導するには観光地の間をレンタカーや電車、バスで「この経路なら何時間かかる」といった情報まで伝える意識が必要だ。外国人旅行者は旅先の情報収集に会員制交流サイト(SNS)を使う傾向が強い。関係者は京都や岐阜の飛騨・高山など外国人受け入れの先進地に学ぶ姿勢が重要だろう。

せいの・さとし 仙台市生まれ、東北大法学部卒。1970年に旧国鉄に入社。JR東日本で財務部長、人事部長、常務を歴任。代表取締役副社長総合企画本部長を経て2006年に社長、12年に会長に就いた。15年6月から東北観光推進機構会長。福島市の実家に本籍を置く。