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インタビュー小泉武夫さんに東北の食の魅力や普及への課題を聞く

東京農大名誉教授の小泉武夫さん

発酵学、食文化研究の第一人者で東京農大名誉教授の小泉武夫さん(73)に東北の食の魅力や普及への課題を聞いた。

東日本大震災発生後、東北の食が抱えている課題は。
「東北地方は農業者の高齢化が顕著だ。農業の力が弱まっていた中で震災と東京電力福島第一原発事故が発生した。東北の太平洋側は地震、津波の被害から完全な復旧に至っていない。福島県内をはじめ原発事故による風評問題も抱えている。一方、日本海側は過疎化が進み、就農年齢が上がっている。いずれの県も強力なリーダーシップを発揮できる農業者を育成し、攻めの農業に転じる必要があると感じている」

東北の魅力を。
「奥羽山脈が走る東北地方の伏流水は鉄分が少なく、水質が極めて優れている。いい水がコメやソバをはじめ、おいしい農産物を生み出している。さらに六県とも海に面している。山から田畑、川、海へと農林水産物の生産工程が連なり、食材が豊富だ。各地域の住民はこれらの特長や気候を生かして独特の食文化を築き上げ、大切に守り続けてきた。東北の食は奥が深く複雑な歴史がある。多彩な漬物など『発酵食品の王国』とも言える」

国内外に東北の「おいしい」を発信したい。
「出身地の福島を例に挙げれば、日本酒の取り組みがすばらしい。震災と原発事故で被災したが、県産日本酒は全国新酒鑑評会で金賞受賞数が四年連続日本一となった。蔵元が互いに技術情報を交換して県全体のレベルを向上するとともに、経営者が若返り新しい感覚で酒造りに挑むようになったことが理由だ。海外にも積極的に売り込んでいる。東北六県の農業や食品加工においても技術交流や攻めの姿勢が欠かせない。将来を見据えた展開も考えるべきだ」

東北以外の地域で注目している事例を紹介してほしい。
「熊本県は農業に参入する若者が全国と比べて非常に多い。県が農家の所得向上のため六次化などの施策に力を入れている。例えば、農家が栽培した小麦を直接売らずに自宅で製麺し、うどん店を営むケースなどがある。県が農林水産分野に多くの財源を確保し、支援している。農業が面白いから、若者がどんどん参入している」

東北地方は今、何をすべきか。
「若い世代、次の世代を育成する施策や教育に力を入れるべきだろう。漁業と農業が一体化した六次化商品の開発など、新たな発想に目を向ける必要がある」

小泉 武夫(こいずみ・たけお) 福島県小野町生まれ。福島県立田村高、東京農大農学部醸造学科卒。東京農大名誉教授。鹿児島大、琉球大、別府大、広島大大学院、石川県立大で客員教授を務めている。専攻は醸造学、発酵学、食文化論。NPO法人発酵文化推進機構理事長。国の「和食」文化保護・継承国民会議委員員などを務める。73歳。