インタビュー魅力発信、連携に活路
ー東北の食の魅力は。
「6県それぞれ名産品がある。コメや畜産のほか、野菜、果樹で各県に特色がある。6県がまとまって取り組んでいる全農東北プロジェクトでは、こうした産品がすべて集まる。食料自給率も高く、食の『独立的な国家』として成り立つ基盤がある。農畜産業だけではなく、6県全てが海に面しており、食のブランド力向上という意味でも豊かな水産業との連携も欠かせない。秋には各地で収穫祭が行われ、旬の食材を使ったメニューが並ぶ。地元の農産物に密着した郷土料理も大きな魅力だ」
ー豊かな食がある一方、いまだ発信力の弱さを指摘する声もある。
「まず東北に住んでいる人たちに東北の良さを再認識してもらい、東北の人たちが発信していくのがベースにある。全農東北プロジェクトでは会員制交流サイト(SNS)を活用して各地のまつり、旬の味を楽しめるイベント、伝統文化、自然など魅力あるコンテンツを発信している。東北域外からのU・I・Jターン、インバウンド(訪日外国人客)に対し、東北をPRするイベントも一過性にならないように知恵を絞らなければならない。例えば、観光業界と連携して、東北を近くに感じさせる取り組みもその一つだ。連携が鍵を握る」
ー食材供給力が高い東北だが、人口減少、少子高齢化が進み、担い手確保が課題だ。
「東北に来てもらうモチベーションとして食、文化、環境、自然の魅力を高めて発信し、就農に導く仕掛けをしっかりと進めたい。最近では異業種連携も手だての一つだ。例えば、閑散期の労働力を活用する方法が考えられる。水産業従事者が繁忙期ではない時季に農業をしてもらう。その逆もある。農業、林業、水産業など多業種が連携し、互いに労働力を補完して周年労働できる形も模索していきたい」
ー東北の未来像をどう描く。
「例えば、雪国しかできないことを考えると、雪の観光、雪下での野菜栽培など、逆手にとったアイデアがある。門外不出の品目をつくり、東北でしか食べられない素材、料理が生まれ、そこに人が集まる。食を通じて人が集い、就農に結びつける。そうした仕掛けづくりを進め、好循環につなげたい」
プロフィール
柴田温
しばた・あつし 山形大大学院農学研究科修了。1989年全農入り。営農・技術センター商品開発研究部、営農販売企画部など経て2014年総合企画部震災復興課長、18年東北営農資材事業所専任課長。仙台市在住、56歳。秋田市出身。