インタビュー産業構造転換、付加価値高めたい
現状をどう分析する。
「自動車や半導体などの産業集積が進み、自動車道インターチェンジ周辺の工業団地は売れ行きが好調だ。空港港湾も活用した物流が増えている。ここ10年間で産業構造は転換している。東北は豊かな産物、景観を生み出している農業が強み。引き続き大切にしながら、6次産業化を進めて国内消費だけではなく、海外に付加価値の高い産品を輸出していくことが持続的成長につながる」
食や観光も有益な資源だ。
「東北は食材の宝庫。調理加工などで付加価値を高め、リピーターをこれまで以上に確保できるようにしていきたい。そういう意味でも観光は産業の柱だ。東北もインバウンド(訪日外国人客)が伸びている。自然や食、東北が誇る伝統的工芸品などの強みを生かし、おもてなしの心を大切にしながら、稼ぐ力に結びつけていきたい」
人口減少、少子高齢化は大きな課題だ。
「産業を支える人材をどう確保していくか。東北の製造業は生産部門が主流だったが、最近は研究開発や企画部門を有する企業が増えつつある。それによって、若い人たちが東北の企業を就職先として選べられるようになってきた。東北は長年、人材流出が課題だった。職種に広がりのある雇用の受け皿づくりをさらに進める必要がある。そのために経産省としても、今までにない新しい効果をもたらす企業を支援している。企業や大学研究機関と連携も深めて研究開発部門設置を推進しているほか、東北に戻って来る可能性のある人材の情報収集や、一度企業で経験を積んだ『第二新卒』と東北の企業とのマッチングにも力を入れている」
地場の中小企業の支援も大切だ。
「事業承継が大きなテーマだ。税負担の軽減策などの支援のほか、相談対応、M&Aのマッチングなどにも取り組み、だいぶ効果も上がってきた。後継者不足問題は一様ではない。今後もそれぞれのニーズに合ったきめ細やかな対応を講じなければならない」
東日本大震災から間もなく8年8カ月。日本列島は近年、大規模災害が相次いでいる。今月中旬には台風19号で東北も甚大な被害を受けた。災害に向き合いながら歩む東北の未来像をどう描く。
「被災者や被災企業がいち早く安心を取り戻せるように復旧、復興にスピード感を持ってしっかり対応していく。東北は魅力があふれている地域だ。東北の人々が視野を広げ、その魅力を再認識し、東北に関心を持ってくれる関係人口の人々とさまざまなアイデアを結集することで道は開ける。東北の良さ、歴史あるものにイノベーションを起こしていく。若い芽を育て、チャレンジできる環境を整える。こうした未来像を描きながら、関連する『人・産業』のコミュニティー、ネットワークづくりを一層後押ししていきたい」
プロフィール
相楽希美
さがら・のぞみ 東京大学大学院工学系研究科修了、米プリンストン大ウッドローウィルソン公共政策大学院修了。89年通産省(現経産省)入り。貿易経済協力局貿易管理部安全保障情報調査室長、大臣官房情報システム厚生課長などを経て17年東北経済産業局長。東京都出身。55歳。