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インタビューデジタルトランスフォーメーション(DX)時代を見据え農業・飲食業界はどう対応すべきか

仙台スイーツ&カフェ専門学校の出崎昇平氏

新型コロナウイルスは食の分野にも打撃を加えた。コロナ禍の今、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代を見据え、農業・飲食業界はどう対応すべきか。東北6県を一つの産地と捉え、農畜産物の販売強化を図る「全農東北プロジェクト」と連携する三幸学園・仙台スイーツ&カフェ専門学校(仙台市)専門課長の出崎昇平氏(51)に聞いた。

—東北6県の食の現状は。
「東北の食料自給率は100%超(カロリーベース)で、自立できるエリアだ。しかし就農者は減り、人口減少も歯止めが利かない。この流れを食い止めるには、東北の魅力づくりが欠かせない。JA全農は商品開発、インバウンドなど多角的な取り組みを展開しており、当校とは農場実習やメニュー開発を通じ、東北の食材や料理を伝える語り部養成を進めている」

—コロナ禍が東北の食に突き付けた課題は。
「外食産業は閉店・休業が相次いでいる。内食、中食では『プチぜいたく』効果でお菓子には日が差してきたが、料理はまだ苦しい。衝撃は農業現場も同様で、酒は特に日本酒の需要が減り、酒米生産者の離農が懸念される。イベントやパーティー自粛・取りやめで花卉(かき)の需要も戻っていない。コロナ禍で浮き彫りになったのは、飲食業と生産現場、家庭は密接に結び付いており、この流れを見渡した対策が必要だということだ」

—DX時代の新たな食提供のスタイルとは。
「店側からすれば『来てください』といえない中、ネット販売など非接触へのシフトが急務。スマホを使ったデリバリーの流れも加速してきた。DXの強みは情報量。売り場なら値札に産地や成分を記載する程度だが、電子商取引(EC)なら食材に対する生産者の思いや調理人のこだわり、ストーリーを伝えやすく、消費者からの納得感も得られやすい。また、レシピも動画で発信でき、調理人監修のお墨付きがあればアクセスもグッと増える。消費者に感想を発信してもらえれば、畑から食卓まで一気通貫の発信スタイルとなる。当校の卒業生は毎年140人。プロの語り部として役割は大きい」

—東北の明るい未来を見据えた提言を。
「新鮮、本当のおいしさは地元だからこそ。宮城でいえばホヤ、セリなど鮮度を重視する商品は門外不出のスタンスでもいいのでは。漁師は『ホヤは船上で食べるのが一番』というが地元以外の需要が多く、セリは東京市場に持っていかれ地元は品薄の状況が続いている。コロナ後を見据え、胃袋をつかんで引き込む流れをつくりたい。観光とリンクさせ農場体験やインバウンドも組み込む。内閣府の調査で、2022年卒業の学生の57%が地方生活に憧れを持っている。田舎に住みながらリモートワークやワーケーションの利点を生かせば、午前中は農作業の手伝い、午後は仕事といった生活が憧れでも夢でもなくなる。食を切り口に東北に人を呼び込み、元気にすることこそが、壮大なプロジェクトのゴールだ」

出崎昇平

プロフィール

出崎昇平

略歴 でさき・しょうへい氏は1990年に辻学園調理技術専門学校(現在は三幸学園)に入社。3回にわたるヨーロッパ研修、沖縄・宮古島のマリンロッジマリアホテルなどへの出向を経て、2018年から仙台スイーツ&カフェ専門学校に。支援学校仙台みらい高等学園の講師も兼ねる。11年に大阪府優良調理師知事賞を受賞。大阪市出身。