Genki

フォーラムとうほく未来Genkiプロジェクト2021
総括フォーラム

東北七新聞社協議会主催の「とうほく未来Genki(げんき)プロジェクト」の総括フォーラムが11月28日、「つながる 東北」をテーマに東京都内で開かれた。プロジェクト初年度の今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の視点で、NTT東日本の滝澤正宏執行役員宮城事業部長が基調講演したほか、金融(人・産業)、農業(食)、観光の各分野の専門家がパネル討論し、東北地方を活性化し、明るい未来を切り開くための方策を探った。フォーラムは新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインでライブ配信した。

東北未来元気総括フォーラム・基調講演

講演する滝澤正宏NTT東日本執行役員宮城事業部長

講演する滝澤正宏
NTT東日本執行役員宮城事業部長

NTT東日本の滝沢正宏執行役員宮城事業部長が「DX(デジタルトランスフォーメーション)で実現する活力ある東北の未来」と題し、基調講演した。要旨は次の通り。

東北に来て1年半、東北の大きな可能性を感じている。皆さまと一緒に飛躍できる東北をつくりたい。

DXにより、特定の分野や組織内に閉じていたシステムや制度が社会全体にとって最適なものへと変貌する。デジタル化されたデータがつながることで、大きな価値を生み出す。一説には、データがつながることで300兆円もの利益が生まれると言われている。

DXには2段階あり、第1段階はあらゆるアナログデータのデジタル化だ。第2段階では複数のデジタルデータを掛け合わせ、マーケティングや新サービス開発のため活用する。それにより、新たな価値やビジネスモデルを創造できる。DXは事業継続のために必須で、成し遂げた企業が競争力を持つ時代になった。

日本はデジタル化やIT環境整備で遅れており、労働時間は長い。デジタル化が進まないため、長時間労働が解消されないと言っても過言ではない。

その中でも東北はさらに遅れている。コロナ禍でデジタル化が進展したが、東北各県は都道府県別デジタル化ランキングで下位に低迷し、テレワーク実施企業も3割にとどまる。なぜ東北で進まないかというと、IT人材不足が挙げられる。東北ではIT人材がIT企業に偏在しており、企業がデジタル化を志向すると外注する必要がある。発注価格やコストの面で二の足を踏む企業が多い。

もう一つの理由は従来の商慣習から脱却できていないからだ。自社や取引先から紙の請求書が送られるほか、押印の必要なケースも多く、IT化が進まない。

一方で、今の東北にはチャンスがあふれている。東北は広大な面積で移動距離が長いわりに、公共交通機関が少ない。人手不足も深刻だ。だがオンラインを使えば距離は解消でき、業務自動化により省力化も可能になるため、弱みを強みに変えられる。そして再生可能エネルギーや土地など資源が豊富だ。伸び代が大きく、本気でDX、デジタル化に取り組めば遅れを挽回し、世界で勝負できる。

DX推進のポイントを実践と環境整備の二つに分けて考えたい。実践では既存業務をどう効率化、高度化するかが鍵を握る。まずは挑戦すること。トライ・アンド・エラーの中で教訓を得て進化できる。その上でデータをどう活用するか、だ。データは世界で最も貴重な資源という人もいる。デジタルデータを上手に活用できれば次のステップに進める。

環境整備ではリーダーシップが最も大事になる。人は変化を嫌う。そこで経営者が強い意志を持ち、変化する必要がある。そうすれば社員や会社が変わる。

DX推進にIT人材確保は欠かせない。日本はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の教育に関する意識が低い。経営者はリーダーシップを持ち、AI、IoTに関する社員教育を進めてほしい。今後はデジタル化なくして企業の事業継続、存続は難しくなる。わがこととして率先して実践する必要がある。東北は伸び代にあふれている。当社も皆さんと一緒にDXに取り組みたい。

東北未来元気総括フォーラム・パネル討論

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パネル討論する出演者

  • パネリスト
  • ■ 日本政策金融公庫特別参与 岡崎文太郎氏
  • ■ 全国農業協同組合連合会常務理 山田浩幹氏
  • ■ 日本政府観光局理事 蔵持京治氏
  • コーディネーター
  • ■ 山形新聞社取締役東京支社長 伊藤哲哉氏
  • 司会
  • ■ フリーアナウンサー 川口満里奈氏
 

「つながる 東北」をテーマに行われたパネル討論の要旨は次の通り。

伊藤 東北の現状と課題についてどう見ているか。

山田浩幹全国農業協同組合連合会常務理事

山田浩幹
全国農業協同組合連合会
常務理事

山田 農業産出額から東北を見ると、全体の額に占める東北の構成比は16%で、九州、関東に次いで3番目。県別では青森が最も多く、次いで岩手、山形、福島、宮城、秋田の順となっている。一方、コメの構成比が一番高いのが秋田、次いで宮城、福島、山形、岩手、青森となり、コメの比率の低い県ほど産出額が多いことが分かる。こうした中、東北の農業の課題の一つは主な仕事を農業としている基幹的農業従事者の減少と高齢化の進展だ。この10年間で3割ほど従事者が減少し、65歳以上の構成比が70%に達した。二つ目は担い手不足による耕作放棄地の増加だ。担い手への農地集積率が高い東北では全国と比べれば少ないが、労働力不足と高齢化により拡大が懸念される。三つ目は新規就農者への対応だ。新規就農者は全国的に減少傾向にあるが、山形や秋田では過去最多を更新している。関係機関が行ってきた施策、支援の成果だが、今後もしっかり自立できるようなサポートが必要だ。

蔵持京治日本政府観光局理事

蔵持京治
日本政府観光局理事氏

蔵持 2011年に622万人だったインバウンド(訪日外国人旅行者)数は、さまざまな取り組みが奏功し19年には5・1倍の3188万人まで増えた。しかし、新型コロナウイルス感染の影響で20年には412万人まで落ち込んだ。観光目的の入国は認められておらず、国際的な移動の制限が続いている状態で、直近21年10月の訪日外客数は2万2千人となっている。19年までの東北をみると、大震災後の厳しい状況から飛躍的な回復を続け、20年までに150万人泊達成を掲げていた目標も1年前倒しで実現させた。直行便就航や自治体のトップセールス、情報発信といった総合的な施策の成果といえる。そうした中で新型コロナ禍に見舞われたのはとても残念だ。これから徐々にインバウンドが再開されていくだろうが、その際に一番大事になるのが飛行機の問題である。直行便をしっかり組み入れてコロナ前に戻していけるかが大きな課題になる。同時に、地域の中での受け入れ環境整備も必要である。

岡崎文太郎日本政策金融公庫特別参与

岡崎文太郎
日本政策金融公庫特別参与

岡崎 東北6県の人口は、この20年間で12%に当たる約120万人も減少した。全国は微減程度だが東北の減少幅は他地方より大きくなっている。雇用の受け皿となる企業数も、この15年間で27%に当たる約10万社減り、全国の減少率を上回っている。地域に雇用を生み出す事業者をいかに維持・増加させていくかが重要な視点になる。日本政策金融公庫総合研究所が行っている全国中小企業動向調査によると、今回のコロナショックで昨年度の中小・小企業の景況感はリーマン・ショック直後の最低水準をさらに下回った。日本公庫は昨年1月に新型コロナに関する経営相談窓口を設置して以降、東北では9月末時点で約5万件、約8600億円の融資決定を行った。18年度の東北の融資実績が約2万5千件、3千億円弱だったことを踏まえれば、いかに多くの事業者がコロナの影響を受けているか分かる。年末、年度末を迎える中、引き続き民間金融機関と共に事業者への資金繰りや財務体質強化の支援に取り組んでいく。

伊藤 東北を元気にするための提言をお願いする。

蔵持 今、世界で注目されている観光分野は、「アクティビティ」「自然」「文化体験」から二つ以上を含む旅行形態であるアドベンチャートラベルだ。コロナ前は世界で約72兆円の市場規模があったとされ、毎年10%のペースで伸びていた。旅行者1人当たりの現地消費額が大きく、旅行者の満足度と合わせ地域へのメリットも大きい。東北でも、山形市の裏山寺のパワースポットを巡る瞑想(めいそう)ハイキングや、青森県の奥入瀬の自然やコケを楽しむ苔(こけ)散歩といったアドベンチャートラベルが行われている。各地域でそれぞれの魅力を生かし、こうしたコンテンツをつくっていくことが大事だ。受け入れ環境の整備と、デジタルを活用して着実に市場に出していくこと、そして買ってくれる人に届けるための的確なマーケティングも鍵になる。地域が持続可能になるよう、観光の分野で何をしていくのかを地域全体で考えていく必要がある。これからの東北観光に期待している。

岡崎 人口・企業数の減少や新型コロナ禍の中でもデジタル活用の推進による経営課題の解決に向けたさまざまな取り組みが広がっている。宮城県七ケ浜のノリ漁師は、自らも家庭向けの販売会社を立ち上げ、EC(電子商取引)サイトをオープンさせて収入の安定化を図っている。コロナの影響を大きく受けた福島県会津芦ノ牧温泉の旅館は、会員制交流サイト(SNS)やホームページサイトなどを充実させ、メディアへの露出を増やして個人客の獲得に取り組んだり、オリジナル商品を販売するオンラインストアを開設したりしている。デジタル活用は東北各県から他地域、世界とつながる無限の可能性を持っている。ただ、多くの中小企業・小規模事業者にとってハードルが高いのも事実。そこで重要になるのは支援の輪だ。地域の支援機関が連携して取り組み、こうしたいという強い思いを実現していくことが、元気な東北に向けて大事なことだろう。

山田 東北の農業の課題について全農は、デジタル技術を活用したスマート農業の普及、パートナー企業との連携による労働力支援、新規就農者研修事業などの取り組みを進めている。情報通信技術の活用では圃場(ほじょう)情報をインターネットの電子地図と関連付け、営農管理を効率的に行おうと開発したシステム「Z—GIS」の普及を進めている。情報を電子化することで時間と労働力を効率化できる。作物や品種、気象情報、人工衛星からの画像などをAI(人工知能)が分析し、最適な防除時期や収穫時期を予測・提案する新しい栽培支援システム「ザルビオ」も普及させており、Z—GISとの連携も開始した。ベテラン農業者の経験や勘に頼っていた部分にザルビオの生育予測を加えることで、効率的で適切な作業が可能になる。他にも東北の6県本部が一つになり東北の魅力や農産物、加工品を発信する「全農東北プロジェクト」が7年目を迎えた。これらの活動を通じて東北の農業を盛り上げていく。

伊藤 最後に一言あれば。

岡崎 大事なのは、まずやってみるという強い意志を持つことだろう。アイデアと工夫次第で、いろんなことがデジタルトランスフォーメーション(DX)で活用できる。東北からつながる取り組みを進めてほしい。日本公庫もこの東北で見いだし、支え、つなぐ・つながる東北、元気な東北を目指し取り組んでいく。

山田 従来はどちらかというと各県単位の活動が多かった東北の県本部だったが、最近は6県が垣根を越えて力を合わせることで、できることが年々進化している。これからも「全農東北プロジェクト」を通じて東北の未来を農業で元気にしていきたい。

蔵持 コロナ禍で厳しい環境にあるが、かといって東北の魅力が減じたわけではない。逆に世界の市場が東北の強みである自然、食、人の温かみを求めている。われわれとしてもデジタルの力を活用して東北全体の情報を発信し、世界につなげていけるようサポートしていく。

伊藤 デジタルの利点を引き出すためには、IT環境整備とともに、東北がもともと持つ良さや強みを再認識し、さらに磨く必要がある。本日のテーマは「つながる 東北」だが、県境を越えた広域連携、観光や農業など業種を超えて新たな価値を見いだす努力も求められる。コロナ禍で大変な今こそ、連携し課題を解決することが大事だ。パネル討論ではDXの最新の動きが紹介され、目指す方向が示された。これらを発展させ、多くの成果が生み出されることを期待したい。

事業報告

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総括フォーラムを締めくくるAKB48チーム8の清水麻璃亜さん(左)と橋本陽菜さん

また、メンバーの清水麻璃亜さん(群馬県代表)と橋本陽菜さん(富山県代表)が、総括フォーラムやこれまでの事業を通して学んだ東北の魅力や可能性について語った。

とうほく未来Genkiプロジェクトでは今年、デジタルトランスフォーメーション(DX)をテーマに観光、食、人・産業の観点で東北各県の実践者を取材し、8月から3回にわたり特集紙面で紹介した。

東北未来元気総括フォーラム・共同宣言

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共同宣言する東北七新聞社協議会の2021年度会長を務める寒河江浩二山形新聞社長(中央)や、(左上から右に)釆田正之東奥日報社長、佐川博之秋田魁新報社長、東根千万億岩手日報社長(左下から右に)一力雅彦河北新報社長、芳見弘一福島民報社長、中川俊哉福島民友新聞社長(オンライン配信画面より)

フォーラムでは、東北七新聞社協議会の2021年度会長を務める寒河江浩二山形新聞社長(山形新聞グループ経営会議議長)をはじめ、釆田正之東奥日報社長、佐川博之秋田魁新報社長、東根千万億岩手日報社長、一力雅彦河北新報社長、芳見弘一福島民報社長、中川俊哉福島民友新聞社長が1人ずつ動画で登場。寒河江会長が代表して共同宣言を読み上げた。

私たち東北七新聞社協議会は本年度、「とうほく未来Genki(げんき)プロジェクト」として、東北の未来に向け、活性化を目指した取り組みを始めました。東北地方で顕在化している少子高齢化、過疎化を乗り越え、持続可能な地域社会をつくるため、観光や産業、食の分野における6県の先駆的事例を通して活力を生み出そうと力を結集してまいりました。

今年は「つながる 東北」をテーマに、これまで議論してまいりました諸問題に加え、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用して時代を切り開く取り組みなどを紙面で紹介しました。本日のフォーラムにより、地域に活力をもたらすのは東北各地に根を張って生きる人々の力であることを改めて感じています。

このプロジェクトは26年までの6年間で、東北の未来を切り開くための課題解決に取り組んでいきます。DXの推進などを通して東北の魅力を発信し、それぞれの地域力を高めるため、私たちは引き続き、東北の人々の潜在力を余すところなく引き出すことを、ここに宣言します。